*ホワイト・アウト*

あれは確か総帥こと私がまだ渋谷でブイブイいわしていた頃・・・
当時、私はかなりモテていた。
同時に十数人の女性と付き合い、1日に何人ものカワイ娘ちゃんとの逢瀬はザラだった。
そんな初夏のある日、どうも下半身がカユイ?
っていうかスゴクカユイ!
我慢できないほどカユイので、ついつい人目を忍んではその不安な部分の付け根辺りを弄っていた。
そして私はトイレに入ると、足早に個室の方に行きパンツを下げてその部分を凝視した。
するとそこは未だかつて見たこともない程広範囲に赤く変色し、
しかも一番カユかった部分は皮がすぅーっと裂けて皮膚が露出している。
「オー・マイ・ガッ!」
(なんということだ!これはきっとなんだかヤバイ病気だ!まさかH.I.V.?)
そう思った私は悩んだ。
午後の授業の間中、寝る間も惜しんで悩みぬいた。
そして、恥ずかしながら友達に相談したところ、それはきっとインキンだということが判明した。
それは何かと尋ねたら、簡単に云うと水虫だと云われた。
その時私は、自分の股間に汚らしいオヤジの足をなすりつけた覚えはない!と強く主張した。
どうやら、友達は信じてくれたようだったので一安心したが、
すぐさまこう続けた、「女とヤッてそのまま寝たんじゃないの?」
身に覚えのありまくることだった。
確かに昨日も一昨日もそのまま寝ていた。
しかし、「風呂ならHの前に入ったぞ!」と云うと、
「Hしたら色々付くじゃん」と返され、
「それでか?」と云うと、
「季節がら、旬だからな。」と云われ妙に納得してしまった。
さて、これからが大変である。
その日のデートを全てキャンセルした私は早々に家路についた。
家に帰ると確かオヤジが水虫だったのを思い出し、
唐突なのはいけないと思い、
まずひとしきりカブト虫についての話を盛り上げた後、
私的にはかなり自然な流れで
まるで突然思いついたかのように水虫の話を持ちかけた。
つもりだった・・・
するとオヤジは、
「お前水虫になったのか?」
と微妙に(っていうか、そのまんま)ジャスト・ミートなことを云いだした。
そこで、
「いや、友達がさぁ〜。」
くそっ!なんて分かりやすいリアクションだろうか?
自分でもなんと返事をすればいいのか分からず、
私の脳は16,000 r.p.m./min.のレッドゾーンに突入しオーバーヒート寸前だった。
すると、突然オヤジはいい薬があるからと云って、どっかから怪しげな小ビンを持ってきた。
これを塗れば一発だとオヤジは自慢げに語った。
私はすかさずその小ビンを受け取り、話が一段落するやいなや、
今更ながら、「明日渡しとくよ。」と云って部屋に持ち去った。
夜になり家族全員が寝静まったのを確認した私はミッション遂行の為一人、風呂に向かった。
全身を、そして特に患部をくまなく洗い終えた私は風呂を上がり、新たな決意を胸に自室へと急いだ。
こうして私の闘いは幕を開けた。
世に云う、”砂漠のミミズ(いるのか?)作戦”である。
まず、怪しげな小ビンを取り出してみたら、ドキン・ピチンキと漢字の横に振り仮名が書いてあった。
なんか点の位置がおかしい?
ますます怪しい薬である。
そこで説明を読もうとしたら、シールが腐食していて判読不可能。
仕方がないのでシールを剥がすと、なんと中国語で説明が書いてあるではないか!
う〜ん、「FUCK ME!」 困った、勘違いな英語を叫んでしまうくらいに困った。
しかし、明日もカワイ娘ちゃんとのデートがひかえていた私に葛藤の余地はなかった。
一刻も早くこの悪夢から逃げ出したい一心で、
そのドキン・ピチンキなる液体を患部に直接に、しかも大量にふりかけた。
さらによせばいいのにすぐさま擦り込んだ。
少しチクッとした。
その後本当にドキンとした。
(えっ?そういう意味だったの?)と思った。
その直後、私は生まれて初めての感覚に襲われた。
激しい痛みと共に患部は熱湯をかけられたが如く熱く感じられた。
つい私は真夜中の住宅街に「ウォォォー!」という叫び声をコダマさせてしまった。
すると全身の毛はみるみる逆立ち、全ての血管は拡張し全身に青筋がたった。
次の瞬間私は、すぐ傍にあった紙切れで狂ったように股間を扇ぎまくるという
プライドすらかなぐり捨てた男に変身した。
このまま死ぬかも?とさえ思われたその時、痛みは第2段階に入った。
なんとあろうことか、尿道にまで例の薬が入り込んでしまったのだ。
私の目の前は真っ白になった。
私の脳はその痛みに抗うべく大量のドーパミンを放出するも、
薬漬けの日々により弱体化した生産ラインは破綻をきたし、
ドーパミンの悲劇的な不足により、
誠に遺憾ながら私の意識はホワイト・アウトした。
かくして私の意識は、翌朝母親にあられもない姿で発見されるまで、
ドキン・ピチンキを握り締めたまま、お花畑を彷徨っていた。
その朝のことを母はこう語る。
朝、起こそうと思って部屋に行くと全裸で大股を開き、
半開きの目と口が不気味さ200%の私がいたそうだ。
母は、そんな私を見て絶叫した。
その声で私は我に返った。
何が起こったのか?すぐには理解出来なかったが、
左手にしっかりと握られたドキン・ピチンキと赤く腫上がった股間を見た瞬間、
事の重大さに寒気がし、血の気の引いていく音が聞こえた気がした。
その日から相当の期間、母のまさに”腫れ物に触るような目”に耐えねばならなかったのは云うまでもないが
母に患部のこととドキン・ピチンキが発見されなかったのは不幸中の幸いとしか云い様がない。
しかし、あるいは母は自分の息子のバカさ加減を認めたくないあまりに
無意識にも自らの記憶を封印してしまったのかもしれない・・・
登校の為、着替えて外に出るといい天気だった。
心配していた患部も午後には腫れも引き、
すっかり乾燥した薄いカサブタのようなモノになっており、
それを剥がすと、その下から綺麗な赤ちゃんのような初々しいお肌が顔を出した。
まさに、一皮剥けた私は、
「よしっ!これで今日もカワイ娘ちゃんとカマせるぜっ!」
といきまいた。
そして私はその日の天気と同じように晴れ渡った清々しい気持ちで待ち合わせ場所の吉祥寺に急いだ。
「今日はニューヨーク(屋上に自由の女神が立ってるラブホ)にでも行くかな?」

数年後、同じ病気を再発したのは想像に難くない。

今日の教訓:Hの後はちゃんとお風呂に入ろうね。


←BACK TO THE X-Files

←BACK TO THE TOP